自分からできる平和作りのはじめとして、「自分の名前を告げる」、「相手の名を呼ぶ」ということを挙げました。それに続くのは「物語を共有する」ということです。
「歴史」(history)は「彼の物語」(his-story)と言われるように、私たちの人生の固有な「物語」があります。生かされてある人生に、神さまが織りなしてくださった物語は実に尊いものです。そしてそれらが分かち合われるとき、知らない者同士だったお互いの距離がぐっと縮まるということがあるでしょう。
そして私たちにとってそのような物語の最たるものは「救いの証し」と言えると思います。作家の最相葉月さんの『証し 日本のキリスト者』という本があります。最相さんが全国を歩き135人のキリスト者から救いの証しを聴き取った1,000頁を超える画期的な書物で、それを読むとまさに個人の物語の豊かさに圧倒されます。
「私たちは、自分のことを話すのには照れもあるし、恐れもある。『誰も自分の話など聞きたくはないだろう』『人に話すほど大した人生を生きてはいない』などと思います。しかしそれを決めるのは自分ではなく、それを聞いた人です。そして他者の人生の物語を聞くことで、その人自身に対するまなざしが変わり、そこに相手の存在に対する肯定や尊敬が生まれてくる。このような『自分の物語を語る』『相手の物語を聞く』という関係性は、人と人との間の平和づくりにつながっていくものだろうと思うのです。実際には、『あの人は苦手だな』とか『あの人とは分かり合えないだろうな』と思う人もいるでしょう。そして、事実そういう関係もあると思います。けれども互いの物語が共有される時、そこに何かの拍子に変化が起こり、対話が起こることで開かれていくものがある。私たちはそのような取り組みをあきらめずにいたいものです」(47-48頁)。